用語集典型的誤解

用語集・
典型的誤解

このページでは、初心者向けの用語解説を行います。

参考書は、小河原 誠『ポパー 批判的合理主義』(キンドル出版、2013年)です。

1.言語四機能説

もっとも広い意味での言語(通信系)を機能の観点から説明しようとする理論。
当初、カール・ビューラーによって、最底辺の表出機能、その上に成立する信号機能、またその上に成立する叙述機能の三機能説が提案されたが、ポパーはこれに最上位の機能として議論(論証)機能を追加することにより、四機能説とした。ポパーは、これらの機能は生物進化の過程で積み上げられてきたと考える。
上位の機能が働いているときには必ず下位の機能も働いているが、その逆は成立しない。

2.算出可能性の原理(principle of accountability)

予測についてある一定の精度が要求されたとき、初期条件についてもあらかじめ必要な一定の精度が計算されねばならないことを要求する原理。
科学的決定論はこの考えの上に成立している。
ポパーは、この原理が成立しないことを論証することによって、科学的決定論を反駁する。

3.三世界論

われわれをとりまくもっとも広い意味での世界は、物理的事物あるいは状態からなる世界1、意識あるいは心的状態としての世界2、および主として人間の精神的活動によって生み出された知的・文化的産物の客観的内容からなる世界3から構成されるとする考え方。
三つの世界の間には相互作用が存在する。
ただし、世界1と3との相互作用においては必ず世界2の介を必要とする。
これらの世界は生物進化の過程で順次形成されてきた。

4.社会工学

ポパーは、社会の変革にはそのための社会的技術が必要と考える。
そのさい彼は、ユートピア社会工学とピースミール社会工学とを区別する。
前者は、社会発展の法則に従って歴史の次の段階を一挙に大規模な形で実現しようとする。
しかし、そこには多くの混乱と弊害が生じる。ポパーは、歴史の発展法則は存在しないと考えるから、社会の諸条件をコントロールしうる範囲で徐々につぎはぎ式に改良してい
こうと考え、その立場をピースミール社会工学と呼んだ。
ユートピア社会工学は、「法則」概念を根本から誤解している。

5.進化論的認識論

ポパーは、生物の進化も、また人間によって生み出される知識もともに問題解決図式(トライアル・
エンド・エラー)にしたがっていると考える。
突然変異体の出現には新しい仮説の出現が対応づけられ、自然選択には仮説の批判的除去の過程が対応づけられ、適応すべき環境には問題状況が対応づけられる。
しかしながら、この議論に対してはたんなる比喩に過ぎないのではないかという批判も根強い。

6.身心相互作用説

心と脳が相互に作用し合うとする考え。
ポパーは、心はもの(物理的状態)に還元されるとする唯物論的立場をことごとく批判したあとで、この考えをエックルズとともに提出した(『自我と脳』)。
ポパーによれば、意識は生物進化の過程で有利なものであったから身体との相互作用のなかで発展することができたのであり、言語の成立とともに自我を形成するに至った。
自我は世界3との交渉のなかで自己を形成するので、世界3につなぎとめられている。
しかしながら、相互作用の実態についての解明はまだ進んでいないように思われる。

7.発生論的二元論

発生論的二元論とは、生物のうちに行動を制御する機関(たとえば、大脳神経系)と運動を実現する機関(たとえば、筋肉などからなる運動装置)とを区別するという考えである。
突然変異は、それぞれの器官で独立に生じると考える。
ポパーは、この考えを導入することによって、ネオ・ダーウィニズムの立場からラマルク的進化をシュミュレートするのみならず、性選択の現象も説明できると考えている。

8.反証可能性

単称言明であれ普遍言明であれ、言明が偽であるとされる可能性のこと。
ポパーは経験科学的言明はすべて反証可能であると考える。
反証可能性の度合いの高い言明ほどより豊かな情報内容をもつ。

9.非決定論

ポパーは、われわれの認識とは独立に存在すると考えられる世界あるいは実在そのもののは、そのすべての面にわたって決定されているわけではないと考える。
したがって、その実在を認識するわれわれの科学的理論も、決定論的予測をすることはできないという意味で非決定的となる。
実在そのものがすべての面にわたって決定されているという考えは形而上学的決定論と呼ばれ、また決定論的認識をもたらすとされる理論は科学的決定論と呼ばれている。

10.ヒストリシズム

歴史主義、歴史法則主義、歴史信仰などとも訳されてきた。これには、親自然主義的傾向と反自然主義的傾向とが区別される。
前者は、自然科学の方法に対して好意的な傾向を示すが根本においては「法則」の概念をまったく誤解しており、歴史には継起の法則が成立すると考えている。
しかし、それはポパーによればたんなる単称言明に過ぎない。反自然主義的傾向は自然科学の方法に対して敵対的であり、歴史や社会の領域においては独自の方法が成立すると考えている。
ヒストリシズムは、社会科学の方法のレベルにおいてのみ定義されるものではなく、歴史と社会についてのひとつの哲学でもある。
そのとき、この立場は歴史には必然性があると考え、それをできるだけ速やかに実現させる ― 新社会の生みの苦しみを緩和する ― ことがわれわれの義務であると考えるに至る。ポパーは、ヒストリシズムの倫理を報償(歴史における成功)を求める倫理であるとしてきびしく批判する。

11.非正当化主義

討論などにおいては一般に自らの立場を正当化する(基礎づける)ことが試みられる。
しかし、正当化の試みは正当化の無限背進、循環、打ち切りという「ほら吹き男爵のトリレンマ」を引き起こす。
この困難は正当化と批判との混同にあるとして、ポパーの弟子のバートリーによって正当化なき批判と
いう考えが提出された。それが非正当化主義と呼ばれる。
この立場では、すべての言明は批判に開かれており、それ自体他から批判されることがなく、他のものを正当化する(基礎づける)だけの最終根拠のようなものの存在は否定される。

12.批判的合理主義

ポパーは、合理主義の基礎は理性を信じることにあると考えた。しかし、その信じること自体はいかなる論証によっても正当化されうるわけではないので、非合理なものと考えざるをえないとされる。
彼はこれを「非合理主義への最小限の譲歩」と呼ぶ。こうした意味においては、ポパーは批判的合理主義は理性の限界をわきまえている合理主義であると主張する。
しかし、ポパーは合理性を正当化可能性として捉えていたためにこのような結論に達したのではないかと思われる。この点は彼の弟子たちによって批判された。

13.表出主義

芸術作品は、制作者の魂の直接的な表出であるとする考え方。こうした考えでは、作品の位置している客観的文脈とか伝統への目配りが弱くなる。
またこの考えは、作品が、ある伝統のなかでの試行であり、伝統のなかでの作品と制作者とのフィードバックの過程を経て生まれてくる点を見落とすことになる。

14.開かれた社会

あらゆる政策、制度、またわれわれのあらゆる行動や言論が公共的批判に開かれている社会。
ポパーは、ペリクレスの演説のなかにすでに開かれた社会のいくつかの重要な理念 ― 民主制、人道主義、外国人の受容などなど ― が語られていたと考える。
またポパーは、歴史を部族主義的な閉じた社会から開かれた社会への移行として見ている。
もちろん、そのとき彼は、その移行が歴史の必然であると考えているのではなく、われわれが意図的に追求すべき目標として考えているに過ぎない。

15.方法論的反証主義

ポパーは、経験科学に属する言明はすべて反証可能であると考えるが、反証回避戦略が採用されるならば、反証可能ではなくされてしまうので、そのようなことを禁止する形で経験科学を営むルールを考えた。
この立場が方法論的反証主義と呼ばれる。

16.民主主義

悪しき支配者を除去するためのメカニズム。ポパーは、民主主義を民衆の支配とか多数決制といったことによって定義することはない。
彼は政治体制に、暴力なしに政府を解職しうる民主制と、そうではない専制政治とを区別するのみである。
彼は、選挙制度についても悪しき統治者をいかに速やかに免職しうるかという点から考え、小選挙区制度と二大政党制を支持している。

17.問題解決図式

トライアル・エンド・エラーの方法とも呼ばれているが、の図式によって考えるのがもっとも好都合である。は問題状況をあらわし、はそこで提案されてくる複数の暫定的な問題解決案あるいは理論をあらわす。
はそれらに対するエラー排除の過程としての批判であり、はそれを通じて新たに出会った問題である。
そして、からまたこの図式がいわばラセン状に再度展開されていくと考えらている。
ポパーは、これを弁証法にとって代わるものとした。

18.普遍言明(全称言明)"universal or all statement"

普遍言明(全称言明)とは、ある集合の要素全体に言及する言明である 。
たとえば、「すべての人間は二本足である」。

19.特称言明"particular statement"

特称言明とは、集合の要素のうちのいくつかのものに言及する言明である。
「竹下登、中曽根康弘は日本の政治家である」

20.単称言明"singular statement"

単称言明とは、集合のうちの一つの要素に言及する言明である。
「アイ ンシュタインは天才である」

21.論理形式"logical form"

基礎言明にかんするポパーの議論を理解するためには、論理学の専門用語で ある「論理形式」という言葉を理解しておく必要がある。
言明は、普通、言語によって表現される。たとえば、「すべての烏は黒い」というのは、いうまでもなく、言明 、全称言明である。
この言明の「論理形式」というのは、この言明を記号論理学の表現形式に翻訳したときの形のことである。
ちなみに、この「すべての烏は黒い」とい う言明は、烏であるという性質をCとし、黒いという性質をBとしたとき、次のようになる。
∀x(Cx→Bx) ここで、xは、世界の中に存在すると考えられるあるものを指している。∀xは、「すべてのxについて」ということである。→は「ならば」ということである。
つまり、この式は、「すべてのxについてxがCという性質をもっているならば、それはBという性質をもっている」という意味である。
「すべての烏は黒い」 という言語的表現においては、「ならば」という表現はどこにも出現していないにも かかわらず、その論理形式においては「ならば」ということが出現してくるのである。
このように、論理形式は、その言明の言語的表現のうちに隠されている論理構造を明らかにするのである。

22.単称存在言明"singular existential statement"

ポパーが、論理形式の観点から、単称言明を区別したときの一つの類型 。
ちなみに、ポパーは単称言明に関しては、単称存在言明と単称非存在言明とを区別 した。(LSD, sec.28)
単称存在言明とは、「時空領域kにかくかくのものが存在する」ということを主張する言明のことである。
論理形式は∃x(Kx&Sx) ここでKxは、xが時空領域kを占有しているということであり、Sxは、xがS(かくかく)という性質をもっていると いうことである。

23.コレクティーフ"collective, Kollektiv"

極限値公理(収束公理)と偶然性公理(無規則性公理)を充足する反復 的事象の系列。(LSD, sec.50)

24.相対度数"relative frequency,relative Haeufigkeit"

事象系列(たとえば、さいころ投げ)において、ある項目までの、ある性質(たとえば、5の目)の頻度。
事象系列(event-sequence)は性質系列(pro perty-sequence, Merkmalfolge)とも呼ばれる。
定義: αH""(β) = N(α.β) / N(α) 上の定義は、参照集合αにおけるβの相対度数。
参照集合αの要素の数で性 質βをもつ要素の数(N(α.β) )を除したもの。(LSD, sec.50)

25.相対度数の系列"sequence of the relative frequences"

事象系列の各項について、それまでの相対度数を算定して、各項に対応させて新たにつくり出した
系列例(コインの裏表、裏(0)と表(1)という2つ の性質)
事象系列:0,1,1,0,0,0,1,0,1,1,0,1,1,1,0,,,,,,,
性質1に着目したときの相対度数の系列:
0/1,1/2,2/3,2/4,2/5,2/6,3/7,4/8,4/9,5/10,6/11,7/12,7/13,, ,,(LSD, sec.50)

26.オールタナティヴ"alternative"

裏か表といったように2つの性質しかもたない 事象系列。 例:コイン投げの系列(LSD, sec.50)

27.分布"distribution, Verteilung"

コレクティーフ内におけるおのおのの性質についての相対度数系列の 極限値。
それら極限値の和は1になる。(LSD, sec.50)
収束公理とも呼ばれる。 相対度数系列の収束値が存在すること を要請する公理。
von Misesによる。(LSD, sec.50)

28.偶然性の公理"axiom of randomnes, Regellosigkeitsaxiom"

von Misesによる。 事象系列の偶然性を表現するもの。賭博方式(gambling system, Spielsystem)を排除するもの。
賭博方式とは、「表」が3回続けて出たら、次は必ず「裏」が出るといった系列。
賭博方式が存在する系列はコレクティーフではない。
この公理は、賭博方式が存在するように見える系列でも十分に長く続けられるならば 、全系列の収束値と一致することを要請する公理である。(LSD, sec.50)

29.単称非存在言明"singular non-existence statement"

「時空領域kにかくかくのものが存在しない」ということを主張する言明のことである。
論理形式は¬∃x(Kx&Sx) ここでKxは、xが時空領域kを占有しているということであり、Sxは、xがS(かくかく)という性質をもっているということである。

30.存在言明"existential statement"

あるものが存在することを主張している言明。とくに時空領域にかんする限定がないものは、普遍的存在言明と呼ばれる。
論理形式は ∃xSxこれは、「Sと いう性質をもっているものが存在する」と読むことができる。

31.普遍的非存在言明

かくかくのものは存在しないということを主張する言明のこと。時空領域にかんする限定はない。
論理形式は ¬∃xSx これは、「Sという性質を もっているものは存在しない」と読むことができる。

32.基礎言明"basic statement"

単称存在言明のこと。しかし、以下のような形式的条件と実質的条件を 充足するものであらねばならない。
形式的条件:これは次の2つの条件からなる。 a)全称言明、つまり、普遍的非存在言明からは、単称存在言明は導出されない。
b) どのような単称存在言明からもの、時空領域にかんする規定を落とすことによって、 普遍的存在言明を導出することができ、それは理論と矛盾することができる。
ここではまず、a)について注釈を加えておこう。全称言明と普遍的非存在言明とが同じで あるということは、論理学の知識のある人にとっては自明のことであるが、ここでは 、早わかり的解説を加えておく。
「すべての烏は黒い」(∀x(Cx→Bx))という全称 言明は、これの2重否定に等しいはずである。

まず、この全称言明を1回目に否定す ると、「すべての烏が黒いわけではない」(¬∀x(Cx→Bx))という言明が得られる 。
これは、(少なくとも一羽)「黒くない烏が存在する」(∃x(Cx&¬Bx))ということと等置である。
さて、この言明を否定すると、「黒くない烏が存在するわけではな い」(¬∃x(Cx&¬Bx))という普遍的非存在言明が得られるということである。
さらに注意すべきは、全称言明から、例化によって得られる言明との違いである。
例化とは、全称言明における変項を個体名(ある特定のもの)に置き換える推論のこと である。

いま、ある特定の烏をmとしよう。すると、この烏についても「すべての烏 は黒い」(∀x(Cx→Bx))という全称言明は妥当するはずであるから、mについては次の
ような主張がなされることになる。
Cm→Bm ところで、例化によって得られたこの 言明は、時空領域にかんする規定がないわけであるから、基礎言明にはなり得ないの。
b)について 「どのような単称存在言明からもの、時空領域にかんする規 定を落とすことによって、普遍的存在言明を導出することができる」という条件については、なんら注釈を必要としないであろう。
「理論と矛盾する」という条件については、たとえば、「時空領域kに黒くない烏が存在する」という基礎言明を考えてみればよいであろう。

それから、時空領域にかんする規定を落とすと「黒くない烏が存在する」(∃x(Cx&¬Bx))が得られる。
これが、「すべての烏は黒い」(∀x(Cx→ Bx))という全称言明と矛盾することは、簡単な論理的推論からすぐわかることである。
注意事項 1.基礎言明と基礎言明の連言からは基礎言明が得られる。 2.基礎言明と、基礎言明でないものとの連言から、基礎言明が得られることもある。
例:r: 「時空領域kに針が存在する」 ¬p:「時空領域kには動いている針は存在しない」( 単称非存在言明) rと¬pとの連言r&¬pは、「時空領域kには動いていない針が存在 する」となるから、基礎言明となるのである。
実質的条件基礎言明は、「観察」 によって間主観的にテストされうるものであらねばならない。
このとき、「観察」という語は無定義語として扱われる。

33.例化"instantiation"

例化とは、全称言明における変項を個体名(ある特定のもの)に置き換える推論のことである。
いま、ある特定の烏をmとしよう。すると、この烏についても「すべての烏は黒い」(∀x(Cx→Bx))という全称言明は妥当するはずであるから、mについては次のような主張がなされることになる。Cm→Bm

34.出来事"occurrence, Ereignis"

出来事は単称言明によって記述される。たとえば、「いまここで雷が鳴 っている」という言明とか、「1933年6月10日の午後5時15分に、ウィーンの第13区で雷が鳴っている」といった単称言明は、出来事を記述する言明である。
そうすると2つ以上の単称言明が同じ出来事を叙述しているということも生じる。
いま、ある出来事を記述する単称言明をpkとしたとき、この言明と論理的に等価な言明の集合はPkと表示される。(ここで、kは、pkに出現する個別名称または座標を表している。)
「言明pkは、出来事Pkを描写する」という言い方は、「言明pkは、それと等価なすべての言明の集合Pkの要素である」ということと同じ意味となる。
「出来事 Pkが起こった」という言明は、「pkおよびそれと等価なすべての言明は正しい」ということと同じ意味となる。
ここからして、出来事Pkが理論tと矛盾するということは 、pkに等価なすべての言明が理論tに、矛盾するということである。
したがって、反証ということの実際的な意味が明らかにされている。(LSD, sec.23)

35.事象"event, Vorgang"

事象については、「出来事」についてのポパーの定義を理解しているという前提のものとで、次の箇所を引用するのが適切であろう。
「Pk,Pl,....を、それに 含まれている諸個体(時空的位置または領域)の点だけ異なっている出来事の集合の 諸要素とする。
しかるとき、われわれはこの集合を『事象(P)』とよぶ。この定義 によれば、たとえば『コップ1杯の水がいまここにこぼれた』という言明について、それと等価な諸言明の集合は『コップ1杯の水がこぼれる』という事象の要素である 、とわれわれはいうであろう。
「出来事Pkを表す単称言明pkについて、われわれ は実在論的話法で、この言明は時空的位置kにおける事象(P)の発生を断言するものである、といえよう」(LSD, sec.23,邦訳109-110貢)

36.同型的事象"homotypic events"

「事象」と同じものを指す概念として理解してよい。(LSD, appendixi)

37.経験的内容"empirical content"

ある言明pの経験的内容とは、その言明の潜在的反証子のクラスである。(LSD, sec.35)

38.論理的内容"logical content"

当該の言明から導出されうるすべての言明のクラス(帰結言明のクラス) 。ただし、トートロジカルな言明は除く。
論理的内容と経験的内容に関しては、次の3つの関係が成立する。
1.論理的内容を等しくする2つの言明は経験的内容も等しい。
2.論理的内容が大きい言明は、より大きな経験的内容をもつか、少なくとも 、等しい経験的内容をもつ。
3.経験的内容が大きい言明は、より大きな論理的内容をもつか、論理的内容に関しては比較不可能である。(LSD, sec.35)

39.範囲"range,Spielraum"

許容された基礎言明のクラス。したがって、範囲と経験的内容の概念とは反対の関係、相補的な関係に立つ。
例としては、誤差範囲などが考えられる(LSD, sec.37)

40.方法論的個人主義"methodological individualism"

社会集団の行動を個人の行動の観点から説明すべしとする方法論的要請。
see『ヒストリシズムの貧困』を参照

41. "意図せざる結果","unintended consequences"

行為は、普通は、何かを目標として、あるいは、何かを実現することを意図してなされる。
しかし、行為には多くの場合、副次的な結果が伴う。そのような副次的結果のうちで、行為者によって意図されなかったもの。
ポパーによれば、そのような意図されなかった結果は、社会の制度的枠組みによって生じるのであるから、それを分析することが社会科学の重要な課題となる。

42.凝縮境界"condensation bounds"

測定における目盛線は、鋭い明確な境界線ではなく、実際には、一定の幅をもった区間である。
しかもその区間の境界線も幅をもっているのである。そして、 これはさらに繰り返される。
したがって、境界線とは実際には凝縮された境界線であるということになる。(LSD, sec.37)

43.相対的に原子的な言明"relatively atomic statement"

ポパーは、絶対的な意味での原子命題は存在しないと考える。
というのは、言明は新しい普遍名辞を次々に導入することによって、果てしなく解体されていくからである。
「相対的に原子的な言明」は、母式もしくはマトリックスによって 定義される。(LSD, sec.38)

44.母式、マトリックス"generating schema, matrix"

基礎言明の複合度をはかるために、相対的に原子的な言明が利用されるが 、その相対的に原子的な言明を生み出すための母型。たとえば、次のようなものである。
「場所 ― には、 ― のための測定装置があり、その指針は目盛りの刻み目 ― と ― とのあいだにある」 最も原子的と便宜上、定義される基礎言明を生み出す。(LSD, sec.38)

45.場"field"

母式からつくり出される一切の言明およびそれらからつくり出される すべての連言の集合のこと。(LSD, sec.38)
場のn組複合度","n-tuple of the field","場のn個の異なった相対的に原子的な言明の連言。
数nは、複合度を表すこ とになる。(LSD, sec.38)

46.適用の場"field of application"

場が、付録iによって規定された条件を満たすとき、それは適用の場と呼ばれる。
付録iでの定義 AとXを言明の二つの集合とする。(直感的には、Aは、 普遍的法則の集合であり、Xは、単称的テスト言明の集合である。)
Aにおける任意の言明aに関して自然数d(a)=nが存在し、これが次の二つの条件を満足するとき、Xは、 Aに関しての適用の場である。(シンボル的にはX=FAと表現される)
(i)Xからのn個の異なった言明の連言Cnはaと両立する。 (ii)そのような連言Cnの任意のものについて、Xには二つの言明xとyが存在するが、x.Cnはaと両立せず、y.Cnはa.Cnから導出されるが、aからもCnからも導出されることはない。
この定義は、Cnを初期条件群として解釈するならばわかりやすい。xは理論によって禁止された言明であり、yは理論 によって容認された言明である。(LSD, sec.38)

47.特性数"characteristic number"

「ある理論tにとり、ある数dに関し、その理論tが、あるd+1組複合に よっては反証されるけれども、場のいかなるd組複合によっても反証され得ないといった単称的(必ずしも基礎的ではない)言明の場があるとする。
そのようなとき、われわれはdを場との関連におけるその理論の特性数と呼ぶ。dより少ない、あるいはdに等しい複合度をもったすべての言明は、それらの内容と無関係に、その理論と両立することができ、理論によって容認される。」(LSD, sec.38,邦訳162貢)
したがって、理論のテスト可能性の度合いは、この特性数によって特徴づけられることになる。
たとえば、dは、理論を適用するときの初期条件の数として考えることができよう。(LSD, sec.38)

48.次元"dimension"

「適用の場との関連における理論tの特性数dを、私は適用の場に関してのtの次元と呼ぶ。」(LSD, sec.38,邦訳163貢)

49.実質的低減"material reduction"

曲線の集合の次元数を減らすには、実質的低減と形式的低減の二つの方法がある。
実質的低減とは、一つ、またはそれ以上の点を特定化することによって 、次元を低減すること。
たとえば、当該の曲線は一定の単一点を通過しなければならないという条件づけは、一定の単称言明、すなわち、初期条件の受け入れとつながる。(LSD, sec.40)

50.形式的低減"formal reduction"

曲線の集合の次元数を減らす方法の一つ。たとえば、楕円仮説から円仮説への移行は理論そのものの次元の低減に対応する。
定義の一般性を低減させないタイプの低減が形式的低減と呼ばれる。
ここで、一般性とは、 「曲線集合の定義D1は、もしそれが曲線の定義D2(またはより一般的な定義)と同じ変換群に関して不変であれば、D2と「同等に一般的」(または、より最寄り一般的)だといわれる。 」(LSD, sec.40,邦訳168貢)

51.曲線の集合の次元"The dimension of a set of curves"

理論の「適用の場」は、時として、理論のグラフ的表現の場と一致する。 つまり、理論は時としてグラフ上の図形として表現できるということである。
グラフ に表された各点は、一つの「相対的に原子的な言明」に対応する。 「「円」、「楕 円」、「放物線」という語は、それぞれ曲線の集合を表す。
そして、それらの各集合は、そのひとつの特殊な曲線を選び出す、あるいは特徴づけるのみ必要にして十分な点がd個だとすれば、次元dをもつ。
代数的に表現すれば、曲線の集合は、われわれが自由に選べるパラメーターの数に依存する。
それゆえ、ある理論を表現する曲線の集合の自由に決定できるパラメーターの数は、その理論の反証可能性(またはテスト 可能性)の度合いの特性数である」(LSD, sec.39,邦訳164貢)

52.単純性"simplicity"

ポパーは、反証可能性が高い理論ほど、単純な理論である と考える。
man den Begriff der ""Einfachheit"" mit dem des Falsifizierbarkeitgrades identifiziert.(Logik der Froschung,S. 100-101)
ポパーによれば、次のような等式が成立する。
テスト可能性=高い先験的 ふたしからしさ=パラメーターの少なさ=単純性 ポパーによれば、規約主義者のいう単純性は、理論の経験的性格とは無縁なプラグマティックで美的な観念に過ぎないということになる。(LSD, chap.7)

53.普遍性"universality, Allgemeinheit"

法則的言明において、主語となるものが時空的に限定されておらず 、普遍性をもっていること、 たとえば、「すべての天体の軌道は……」の場合と、 「すべての惑星の軌道は……」の場合とでは、前者の方が普遍性が高い。
要するに、 法則の対象領域が普遍的であるということ。

54.正確性","precision, Bestimmtheit"

法則のあてはまる対象について、より正確な規定をすること。
たとえば、「……は円である」と「……は楕円である」とでは、前者の方がより正確である。(LSD, sec.47)

55.数値的確率言明"numerical probability statement"

確率についての数値的表現が含まれている言明(LSD, sec.47)

56.非数値的確率言明"Non-numerical probability statement"

確率についての数値的表現が含まれていないにもかかわらず、確率的で あることを主張している言明(LSD, sec.47)

57.確率の主観的解釈"subjective interpretation of probability"

確率言明は、客観的なものではなく、主観的な、あるいは、心理的な 期待値を表明したものであると考える立場。
ポパーによると、論理的解釈もこれに含まれる。(LSD, sec.48)

58.確率の論理的解釈、"logical interpretation of probability"

確率を言明間の演繹関係によって解釈しようとする立場。
ある言明が 、他方の言明から得られる情報または知識に照らして、確率値を算定しようとする。
ケインズはこれを、「合理的信念の度合い」と読んだ。(LSD, sec.48)

59.確率の客観的解釈、"objective interpretation of probability"

確率言明を度数解釈の観点から理解しようとする立場。ポパーは、ミーゼスの度数解釈を発展させることによって、客観的解釈を発展させようとする。(LSD, sec.48)

60.参照集合"reference class, Bezugklasse"

邦訳は関連集合。 空でない試行の有限系列。たとえば、昨日までのさいころ投げの系列。
参照集合αの要素の数(LSD, sec.52)

61.性質集合"property class, Merkmalklasse"

この集合は、通常、βで表す。特定の性質をもった要素の集合のこと。
たとえば、5の目の集合βは有限でも無限でもよい。(LSD, sec.52)

62.基本性質","primary property, Grundmerkmale"

互いに素であるような性質、たとえば、さいころの目、1、2、3、4 、5、6は、基本性質である。
これらの相対度数の和は、1である。 邦訳では、第一次的性質と訳されている。(LSD, sec.54)

63.選択"selection, Aussonderungen"

参照集合の中から、ある特定の性質をもった要素を選び出すこと。(LSD, sec.53)

64.独立"independence, Unabhaengigkeit"

参照集合α.β内で、もとの参照集合α内でと同じ相対度数をもつγが生じるとき、性質βとγとは参照集合α内で相互に独立である。
つまり,α・βF’’(r)=αF’’(r)が成立すること。(LSD, sec.53)

65.無影響性"Insensitiveness"

二つの性質βとγとが(相互に)、参照集合内で独立であれば、性質γはα内でβ要素の選択の影響を受けない。(LSD, sec.53)

66.無関係性"Irrelevance, Belanglosigkeit"

α内でβとγが相互に独立な時には、集合α内のある特定の要素が性質βをもっているという情報は、その要素が性質γをも、もっているかどうかに関しては、なんら意義を有しない。
この無意義性のことを無関係性という。(LSD, sec.53)

67.順序選択"ordinal selection, Stellenaussonderung"

参照集合αの要素に番号を付けて、番号順にならべた系列を 作る。
順序選択とは、順序数に関する性質β(たとえば、偶数であること)にしたがって選択をおこなうことである。
この選択によって、当然、部分系列が作られる。(LSD, sec.54)

68.近傍選択"neighbourhood selection, Umgebungsaussonderung"

たとえば、直前の先行者が性質γをもつようなすべての要 素を選び出すことを近傍選択という。(LSD, sec.54)

69.位置による性質"secondary properties, Ordnungsmerkmale"

邦訳では、第二次的性質。位置による性質と訳した方がよいかもしれない。
系列内の位置によって要素が獲得する性質のことをいう。たとえば、 「偶数番目のもの」、「裏の次のもの」といった性質。(LSD, sec.54)

70.確認"corroboration, Bewaehrung"

仮説がきびしいテストに耐えたことを示す概念。
確認度(degree of corroboration, Grad der Bewaehrung)が、確率と一致するか否かがポパーにとっての問題である。(LSD, chap.10,note1)

71.仮説の確率 "probability of a hypothesis, Hypothesenwahrscheinlichkeit"

ポパーは、仮説の確率は言明の確率であって、出来事の確率とは異なると考える。
ポパーが、L.Sc.D.で批判の標的にしているのは、 ライヘンバッハである。 仮説の確率は、言明系列内における言明の(相対的)真理度数(truth-frequency, Wahrheitshaeufigkeit)となる。(LSD, sec.80)

72.作業学校"Arbeitsschule"

オーストリアにおける学校改革運動において提起された新しい学校の理念。生徒が、作業などを通じて能動的に授業に参加することが期待されている。
「働いてあることを習得する(sich etwas erarbeiten)」というのが基本理念のようである。(小河原 誠訳『ウィトゲンシ ュタインと同性愛』104貢)

73.汎心論","panpsychism"

物質をも含めて、すべてのものは魂、あるいは魂の先駆形態をもっているとする学説。(Self and its Brain,sec.7)

74.動物識"sentience"

動物がもっていると(ポパーが考えている)意識。ポパーは 、animal consciousnessという言葉もあてている。(Self and its Brain,sec.6)

75.有機的進化"organic evolution"

従来、生物の進化は、生物に対する環境の側からの一方的な選択によって生じると考えられてきたが、有機的進化の学説においては、生物体の側の、嗜好、 目的、価値、選好、計画、行動習慣等が大きな役割を果たすとされる。
ある生物体の種が、自ら主体的に環境を選択し、そして変化させる中で、子孫に対する特定の選択圧を増大させることになる。これよりして、定方向的進化現象のようなものも説明可能になる。
もちろん、獲得形質の遺伝といったことは考えられているわけではなく、 むしろ、ダーウィン主義の観点から、そのような過程をシュミュレートしようとする ものである。

76.世界1"world 1"

物理的世界。物理的事物からなる世界。

77.世界2"world 2"

意識や心理的状態を含む精神的状態の世界。簡単に言って、主観的意識の世界のことである。

78.世界3"world 3"

人間による精神的生産物の内容からなる世界。
ポパーは、世界3は、人間の主観 的精神とは独立に客観的に存在すると考える。
人間によってひとたび生産された後では、世界3自律的発展(意図しなかった帰結)を遂げる。
世界3におけるもろもろの 問題とか、理論とか定理は発見されるものである。(Self and its Brain,sec.11)

79.相対主義"relativisim"

それは$相対主義$とよばれるような態度を可能とします。この態度は、$あらゆる$テーゼは知的には多かれ少なかれ同等に主張可能で あるというテーゼを導きます。
すべてが許されるのです。ですから相対主義のテーゼ は、明らかにアナーキー、法喪失状態、そして暴力の支配を導くのです。
「相対 主義とは、何でも主張できる、ほとんど何でも、したがって何も主張しないという立場です。すべては真であるか、無であるかなのです。ですから、真理は意味をもちません。」(Auf der Suche nach einer besseren Welt,chap. 14)

80.批判的多元主義"critical pluralism, kritischer Pluralismus"

批判的多元主義とは、$真理の探求という関心のもとに$あらゆる理論が - 理論の数が多ければ多いほど、理論はより良くなるのですから - 理論間の競争に投げ入れられるべきであるとする立場です。
この競争は、理論についての合理的な議論と批判による〔不適切な〕理論の除去とから成立します。
討論が合理的であるとは、つまり、争い合う理論間で真理が問題になるということであり、批判的討論において真理により接近していると思われる理論がよりよいものであるという ことであり、そして、よりよい理論が悪しき理論を排除するということです。
したがって、真理が問題になっているわけです。」(Auf der Suche nach einer besseren Welt,chap. 14,sec.2)

81.下降的因果作用"downward causation"

82.創造主義"creativism"

83.創発"emergence"

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